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長野地方裁判所松本支部 昭和51年(ワ)170号 判決

主文

一  被告は、原告に対し、金三九九万九八二一円及び内金三五九万九八二一円に対する昭和五〇年六月一四日から支払済みまで、内金四〇万円に対する昭和五一年一二月三日から支払済みまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを七分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二八九二万八〇五九円及び内金二七四二万八〇五九円に対する昭和五〇年六月一四日から、内金一五〇万円に対する昭和五一年一二月三日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(事故の発生)

原告は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)によつて傷害を受けた。

(一)  発生時 昭和五〇年六月一三日午後七時五〇分ころ

(二)  発生地 長野県東筑摩郡生坂村東広津字大日向付近道路(国道一九号線)

(三)  加害車 大型貨物自動車(長野一一あ三三四号)

運転者 訴外亡勝俣茂人

(四)  被害者 原告

(五)  態様 右事故発生地の加害進行方向左側にあつたバス待合所でバスを待つていた原告が、同所にあつた段差につまづき、路上に転倒したところ、折から進行してきた加害車が原告を轢過した。

(六)被害者の受傷状況 両大腿切断、左肩関節脱臼骨折

2(責任原因)

被告は、加害車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものである。

3(損害)

(一)  逸失利益

原告は、本件事故によつて両大腿切断の傷害を負つたが、右傷害による原告の労働能力喪失率は一〇〇パーセントである。

ところで、原告は、本件事故当時六〇歳の男子であつたから、以後八年間就労が可能であつたのであり、原告は、右期間中、原告の右年齢に対応する昭和五〇年度賃金センサスによる産業計、企業規模計、学歴計の男子労働者の年間給与額(きまつて支給する現金給与額に年間賞与その他の特別給与額を加算)相当の収入を得ることができたから、新ホフマン方式により中間利息を控除した同人の得べかりし利益の現価は一五二〇万四七七六円となる。

(二)  治療関係費 三〇〇万七一五三円

(1) 治療費 一五六万一一五三円

(2) 入院雑費 二八万二〇〇〇円

一日当り五〇〇円の割合による入院日数五六四日分

(3) 付添看護料 一一六万四〇〇〇円

一日当り二〇〇〇円の割合による入院日数五六四日分

(但し、昭和五〇年六月一三日から同月一八日までの間は二名の付添を必要とした)。

(三)  介護料 八〇一万六一三〇円

原告が前記負傷のため入院した病院から退院したのは、原告が六二歳五か月のときであるところ、その時点における原告の平均余命は一五年五か月であり、原告は前記傷害により生涯他人の介護を受けることを余儀なくされ、その介護料は一日二〇〇〇円が相当であるから、新ホフマン方式により中間利息を控除して介護料の現価を算出すると八〇一万六一三〇円となる。

(四)  慰謝料 一二〇〇万円

原告は、本件事故により前記の期間の入院生活を余儀なくされ、また股関節以上の両足切断という重篤な後遺障害を残すに至り、余生を不具の身で送らざるを得なくなつた。

右事態により原告が被つた精神的、肉体的苦痛は甚大なものであり、この精神的、肉体的苦痛を慰謝するための慰謝料は一二〇〇万円をもつて相当とする。

(五)  弁護士費用

原告は、原告訴訟代理人に本件訴訟の提起と追行を委任し、手数料として金一五〇万円を支払うことを約した。

4(損害の填補)

原告は、本件事故に関して、自賠責保険から一〇八〇万円の支払を受け、これを右損害に充当した。

5(結論)

よつて、原告は、被告に対し、右損害金合計二八九二万八〇五九円及び内金二七四二万八〇五九円に対する本件事故発生日より後の日である昭和五〇年六月一四日から支払済みまで、内金一五〇万円に対する本件事故発生日より後の日である昭和五一年一二月三日から支払済みまでそれぞれ民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実について (六)は知らない。その余は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実について (一)のうち、原告が本件事故によつて傷害を負つたこと及び原告が本件事故当時六〇歳であつたことを認め(但し原告の右傷害の内容は不知)、その余を否認する。(二)は知らない。(三)、(四)はいずれも否認する(但し(三)のうち原告が退院した当時六二歳五か月であつたとの点は認める)。(五)は知らない。

4  同4の事実のうち保険金支払の事実は認める。

三  抗弁

1(免責の抗弁)

(一)  訴外亡勝俣の無過失

訴外亡勝俣は、本件事故当時、加害車を運転して、本件事故現場付近道路のセンターライン寄りを制限速度内の時速五〇キロメートルの速度で長野方面から松本方面に向けて走行していたところ、加害車が原告を轢過した地点の手前二〇・七五メートルあたりに差しかかつたとき、右轢過地点の道路の左側にあつたバス停留所付近の道路外に佇立して加害車を見つめている原告を発見したが、その際原告には異常な行動に出るような様子がなかつたので、そのまま加害車の進行を継続したところ、加害車が右轢過地点の手前七・三五メートルあたりに至つた際、原告は、急に、右停留所付近のガードレールに手をかけるようにして、頭の方から加害車の進路内にとび込んできたため、訴外亡勝俣は、急制動と右転把の措置を講じたが間に合わず加害車の左車輪で原告の両足を轢過したものであり、右の事故の経過からすれば、加害車を運転していた訴外亡勝俣には本件事故について過失はない。

(二)  原告の過失

原告は、本件事故当時、前記バス停留所にあつたバス待合所で松本行のバスを待つていたが、長野方面から進行してきた加害車を松本行のバスであると誤信し、これに乗車すべく右待合所から道路の方へ出て行つたが、原告は、右足の自由がきかなかつたうえ、足元を確認することなく道路の方へ出て行つたため、まず、右待合所付近の段差につまづいて転倒し、起き上つた後、今度は同所の道路端の側溝付近でつまづいて道路上に転倒し、その結果加害車に轢過されたものである。

ところで、本件事故発生当時には、同日の松本行の最終バスはすでに同停留所を通過してしまつており、そのことは同停留所にあつた時刻表を見れば容易に確認することができた。また加害車のごとき大型貨物自動車とバスとは夜間でも容易に識別することができる。それにもかかわらず、加害車を松本行のバスと誤認した原告の過失は本件事故の重大な原因となつている。また、足元を確認することなく道路の方へ出て行つて二度に亘つて転倒した原告の過失も本件事故の重大な原因となつている。

(三)  加害車についての構造上の欠陥、機能上の障害の不存在

本件事故当時、加害車には、本件事故と因果関係のある構造上の欠陥や機能上の障害はなかつた。

(四)  よつて、被告は自賠法第三条の責任を負うものではない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)の事実について 訴外亡勝俣が本件事故当時、加害車を運転して、本件事故現場付近道路のセンターライン寄りを同所における制限速度内である時速五〇キロメートルの速度で長野方面から松本方面に向けて走行していたとの事実は認めるが、その余は否認する。

訴外亡勝俣は、本件事故当時、加害車の上向の前照燈を点灯して加害車を走行させていたのであるから、被告が訴外亡勝俣が本件事故の直前に原告を発見した地点であると主張する地点よりはるかに手前で原告を発見することができた。また、訴外亡勝俣が原告を現認した際には、対向車はなかつたから、訴外亡勝俣としては、原告の安全を考慮して、対向車線寄りを走行するか、徐行して原告の動静を確認すべきであつたにもかかわらず、訴外亡勝俣は右措置をとらなかつた。

右事実に対する被告の認否 訴外亡勝俣が本件事故当時加害車の上向前照燈を点灯して加害車を走行させていたことは認めるが、訴外亡勝俣に右の措置をとるべき義務があつたことは争う。

2  抗弁1(二)の事実について 原告が本件事故当時前記待合所で松本行のバスを待つていたこと、原告が加害車を松本行のバスと見間違えたことは認めるが、その余は否認する。

本件事故当時、加害車は、運転台の屋根付近の飾りライトを点燈させ、かつ上向きの前照燈を点燈していたから、原告は、これがバスか大型貨物自動車か容易に識別できなかつたものであり、雨降りの夜、バスを待つている者が走行してきた大型貨物自動車をバスと見間違えることは通常起りうる事態であるから、このことをもつて原告に本件事故について過失があつたということはできない。

3  抗弁1(三)の事実は知らない。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の事実(但し、(六)の事実は除く。)、同2の事実は、いずれも当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果及び成立に争いのない甲第一号証によれば、原告が本件事故によつて両大腿切断及び左肩関節脱臼骨折の傷害を負つたとの事実を認めることができる。

二  そこで、次に免責の抗弁について判断する。

訴外亡勝俣は、本件事故当時、加害車を運転して、長野方面から松本方面に向けて、本件事故現場付近道路のセンターライン寄りを上向きの前照燈を点燈して、制限速度内である時速五〇キロメートルの速度で走行していたこと、原告が本件事故当時、本件事故現場付近にあつたバス停留所の待合所(加害車の進路前方左側の道路に設置されていた。)で松本行のバスを待つていたことは、いずれも当事者間に争いがなく、証人小野沢芳房の証言、原告本人尋問の結果及び成立に争いのない乙第六号証、同第七、第八号証、証人麻和友吉の証言によつて本件事故現場付近にあつたバス停留所の時刻表を訴外麻和友吉が昭和五〇年六月一四日に撮影した写真であると認められる乙第一二号証の一、二並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。

1  原告は、本件事故当日の午後六時四〇分ころから前記待合所で松本行のバスを待つていたが、松本行の最終バスは午後六時一三分に、途中の明科止の最終バスは午後七時三三分に前記バス停留所に到着することになつていたが、原告は同停留所のバス時刻表を見て右の明科止の最終バスを松本行の最終バスであると思つていた。しかし、原告は、バスを待つている間に眠つてしまつたことなどから本件事故発生前の午後七時五〇分ころまでの間に松本方面行のバスが同停留所を通過したことに気付かなかつた。

2  原告は、同日午後七時五〇分ころ、長野方面から本件事故現場に接近してくる訴外亡勝俣運転の加害車に気付いたが、これを松本行のバスと見間違え(この点は当事者間に争いがない。)、これに乗車すべく待合所から道路の方へ出て行つたが、原告は以前の骨折のため右足の自由がきかなかつたうえ、加害車を松本行の最終バスと誤認しこれに乗らないと松本に帰れないと考え狼狽し、足元を十分に確認しないで道路の方に出て行つたため、まず右待合所から出たところでつまづいて倒れて膝をついてしまい、立ち上つて更に道路の方へ出て行つたところ、今度は道路の側溝の蓋につまづいて進行してくる加害車の直前の道路上に転倒してしまつた。

3  訴外亡勝俣は、加害車が原告を轢過した地点の手前約二〇・七五メートルあたりに差しかかつたとき右バス停留所にいる原告を発見したが、その様子から危険はないものと考え、前記速度のまま加害車を進行させたところ、右轢過地点の手前約七・五メートルあたりに至つたとき、突然原告が加害車の進路前方の道路上にとび出して転倒したため、訴外亡勝俣は急制動の措置をとつたが間に合わず、加害車は原告の両足を轢過してしまつた。

4  なお、原告は、右待合所から道路の方に出るとき加害車の方を見た後は二度目のつまづいた時点までは全く加害車の方を見ていなかつた。他方、前叙のとおり、加害車は、本件事故当時上向きの前照燈を点燈させていたから、加害車からはその約六〇メートル前方までの範囲の状況ははつきり確認することができたが、訴外亡勝俣は前記の原告を発見した地点に至るまでは原告の存在に気付かなかつた。

以上のとおり認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定の諸事情を前提として、訴外亡勝俣に本件事故についての過失があつたか否かたついて検討するに、前叙のとおり訴外亡勝俣は加害車の前方約六〇メートルまでの範囲までは確認できる状況にあつたのであるから、本件事故の際原告を発見した地点より相当手前から原告の動静を確認できたといえる。

ところで、自動車運転手は、高速道路等の自動車専用道路を通行する場合は格別、それ以外の道路を通行する場合には、道路付近に人がいれば、不測の事態に備え、その動静に注意を払い、その者と自動車との間に安全な間隔を保つて通行するか、それができなければ徐行する必要があるが、前叙のとおり、訴外亡勝俣は、前記の轢過地点手前約二〇・七五メートルのあたりに至るまで原告の存在に気付かなかつたのであり、また訴外亡勝俣が原告の存在に気付いてから原告が道路上に転倒するまでの時間は前記の加害車の速度と走行距離からすれば約一秒にすぎず、右時間内に訴外亡勝俣が原告の動静を十分に確認できたかどうかは極めて疑問である。そして、本件全証拠によるも訴外亡勝俣において確認が可能であつた本件事故前の原告の動静が本件事故を予見させるものでなかつたことを認めることはできない。

そうすると、訴外亡勝俣が本件事故について無過失であつたと断ずることはできないといわなければならない。したがつて、その余の点について判断するまでもなく、被告の免責の抗弁は理由がない。

しかし、他方、原告の方にも、加害車を松本行の最終バスと誤認して道路の方へ出て行つた点及び道路の方へ出て行く際に足元を確認しなかつたため二度に亘つてつまづき自己の身体を道路上の進行してきた加害車の直前に転倒せしめた点において本件事故について極めて重大な過失があつたというべきである。

なお、原告は、加害車をバスと誤認した点について、本件事故当時加害車は運転台の屋根付近の飾りライトを点燈させ、かつ上向きの前照燈を点燈していたため加害車がバスであるか大型貨物自動車であるか容易に識別できなかつた旨主張する。

しかし、路線バスは、夜間には走行中も室内燈を点燈させており、かつ前面には行先を表示する装置があり、これも点燈させているのが通常であり、他方、大型貨物自動車は室内燈を消燈して走行しており、また右のような装置を有していない。

したがつて、原告主張の状況下でも、相当の注意を払つて確認をすれば、加害車がバスでないことは識別できたものというべきところ、原告は、前叙のとおり、待合所で加害車を見た際、これをバスであると思い込み、その後は加害車の方を確認することなく道路の方へ出て行き二度目につまづいて道路上に転倒するにいたつて加害車の方を見てこれがバスでないことに気付いたのであり、右の加害車に対する確認の懈怠が前記の道路に出て行く際の足元の確認の懈怠と相俟つて本件事故の重大な原因となつているというべきである。

右の原告の過失は、原告の損害額の算定において斟酌すべきであり、被告と原告との過失割合は、前記認定の事故の態様からすれば、被告側(すなわち訴外亡勝俣)が四割、原告が六割とするのが相当である。

三  損害

1  逸失利益 一二四七万六二七一円

原告が本件事故によつて両大腿切断の傷害を負つたことは前叙のとおりであるところ、右傷害の態様程度からすれば、右傷害による原告の労働能力喪失率は一〇〇パーセントとするのが相当である。そして、原告が本件事故当時六〇歳であつたことは当事者間に争いがないところ、原告は本件事故に遭遇しなければ満六八歳まで就労可能であつたというべきであり、その間原告は毎年右年齢に対応する昭和五〇年度賃金センサスによる産業計、企業規模計、学歴計の男子労働者の年間給与額(きまつて支給する現金給与額に年間賞与その他の特別給与額を加算)である一八九万三五〇〇円相当の収入を得ることができたはずである。

そこで、新ホフマン方式により中間利息を控除して原告の得べかりし利益の現価を算出すると、次のとおり一二四七万六二七一円となる。

(年間給与額)(新ホフマン係数)

1893500×6.589=12476271

2  治療関係費 三〇〇万七一五三円

(一)  治療費 一五六万一一五三円

成立に争いのない甲第五号証の一ないし三及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件事故による前記傷害の治療費として、原告主張の金員を支出したことが認められる。

(二)  入院雑費 二八万二〇〇〇円

成立に争いのない甲第四号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故による前記傷害の治療のため昭和五〇年六月一三日から同五一年一二月二八日までの五六四日間入院したが、原告は、この間一日当り五〇〇円、右入院期間中合計二八万二〇〇〇円相当の入院雑費の支出を余儀なくされたものと推認することができる。

(三)  付添看護費 一一六万四〇〇〇円

前記認定の原告の傷害の部位程度からすれば、前記入院期間中原告主張のとおりの付添が必要であつたものと認められ、その費用は付添人一人一日当り二〇〇〇円をもつて相当とする。

3  介護料 八〇一万六一三〇円

原告が前記傷害のため入院した病院から退院した昭和五一年一二月当時六二歳五か月であつたことは当事者間に争いがなく、厚生省作成の昭和五一年の簡易生命表によれば原告の年齢の男子の平均余命は一五年を下らないことが認められ、前記認定の原告の傷害の部位程度からすれば、原告は右傷害のため生涯他人の介護を余儀なくされることになつたものと認められ、その介護の費用は一日二〇〇〇円が相当であると思料される。

そこで、新ホフマン方式により中間利息を控除して右一五年間の介護料の現価を算出すると、次のとおり原告主張の金額となる。

2000×365×10,981

4  過失相殺

前記のとおり、本件事故については原告に重大な過失があり原告の右財産的損害については六割の過失相殺をすべきであるから、結局、原告の前記財産的損害のうち、被告において負担すべきものは、過失相殺の結果、九三九万九八二一円(円未満切捨)となる。

5  慰謝料 五〇〇万円

前記認定の原告の傷害の部位、程度及び入院期間からすれば、原告が本件事故によつて被つた精神的、肉体的苦痛は甚大なものであり、生命を奪われた場合に匹敵しあるいはそれ以上のものであるというべきところ、前記認定の本件事故の態様、被告の過失の程度その他の諸般の事情を総合すると、本件事故によつて原告が被つた精神的損害は五〇〇万円をもつて慰謝するのが相当と考える。

6  損害の填補

原告が本件事故に関して自賠責保険から一〇八〇万円の支払いを受けたことは当事者間に争いがないところ、右金員は原告の損害額に充当されることとなる。その結果、原告の損害残額は三五九万九八二一円となる。

7  弁護士費用

原告が本件訴訟の追行を原告訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであり、弁論の全趣旨によれば、原告は原告訴訟代理人に対し右の手数料として一五〇万円を支払うことを約したとの事実を認めることができる。そして、本件訴訟の内容、認容額を考慮すると、本件事故と相当因果関係を有するものとして原告が被告に請求しうべき弁護士費用は金四〇万円をもつて相当とする。

四  結論

以上判示したところによれば、被告は加害車の運行供用者として前記原告の損害金合計三九九万九八二一円及び内金三五九万九八二一円に対する本件事故の発生日後である昭和五〇年六月一四日から支払済みまで、内金四〇万円に対する本件事故の発生日後である昭和五一年一二月三日から支払済みまでそれぞれ民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるというべきである。

したがつて、原告の本訴請求は、右金員の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 窪田正彦)

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